Armaf Odyssey Mandarin Sky|甘い柑橘の夕暮れ
5,000円のアンバーグルマン。マンダリンの明るさから始まり、キャラメルとトンカの甘さへ落ちていく。強さも弱点も含めて、向く人を正直に置いていく一本。
5,000円で買える甘い柑橘、と聞いてまず思うのは「安いなりの理由があるのでは」という疑い。Armaf の Odyssey Mandarin Sky は、その疑いをどう受け止めるか、というところから話が始まる。順番に答えていきたい。
結局、どんな香りなのか
ひとことで言えば、明るいオレンジのあとに甘さがとろりと落ちてくる香り。最初に立つのはマンダリンとオレンジ。皮を剥いたときの、あの弾ける柑橘。そこにサフランとセージがほんの少しの陰影を添える。甘いだけの子供っぽさに寄り切らないのは、この一瞬のスパイスと苦みのおかげだ。
柑橘はしかし長くは留まらない。中心に控えているのはキャラメルとトンカビーンの甘さ。焦がした砂糖のような、少し湿った甘みがふわりと広がっていく。マリーゴールドが花の温度を足して、ベースのアンブロキサン、シダー、ベチバーが下からしっとり支える。全体としては甘めのシトラス・アンバーウッディ。グルマンと呼ばれる、食べ物めいた甘さの系譜だ。
時間とともに、どう変わるか
つけた瞬間の主役は間違いなく柑橘。爽やかで、明るくて、この段階だけ切り取れば夏の朝にも似合う。だが30分もすると、オレンジは背景に退き、キャラメルとトンカが前に出てくる。ここからが本体、と言っていい。
甘さが主役になった後は、わりと素直にその調子が続く。ウッディなベースが甘さの輪郭を締めるので、だらしなく甘ったるいまま終わることはない。夕暮れから夜にかけて、香りがだんだん肌に馴染んでいく感じは、この価格帯にしては丁寧だと思う。
強さと、使いどころ
拡散はそこそこ強め。EDP らしく、ワンプッシュでも近くにいる人にはしっかり届く。だからこそ、真夏の炎天下には少し重い。汗と混ざると甘さが暴れる瞬間があって、そこは正直、得意な場面ではない。
逆に映えるのは春から夏の夜。気温が少し下がった頃、甘さがちょうどよく丸くなる。デートにも、カジュアルからセミフォーマルの席にも滑り込む。デイリー使いもできるが、朝のオフィスにこの甘さは人を選ぶかもしれない。夜寄りの一本、と覚えておくと外さない。
誰に向いて、誰に向かないか
向くのは、甘い香りに温かみと色気を求める人。手の届く価格で、甘い余韻をしっかり楽しみたい人。柑橘の明るさと甘さの両方を一本で欲張りたい人にはよく応える。
向かないのは、甘さそのものが苦手な人。爽やかさが最後まで続くと期待している人も、序盤で裏切られた気持ちになるかもしれない。あくまで柑橘は入口で、本体は甘さだ。それから、この香りは Parfums de Marly の Althaïr のクローンとしてよく語られる。似た方向を高価格帯で既に持っている人には、あえて増やす理由は薄いかもしれない。ただ、クローンだからと侮るのももったいない出来ではある。
日本で手に入るのか
国内正規の取り扱いはなく、流通は並行輸入が中心。Amazon.co.jp などで100mlが4,000〜6,000円前後で見つかる。100mlという大瓶がこの値段、というのが Armaf というブランドの立ち位置をよく表している。惜しみなく使える量と価格。減りを気にせず、腕にも服にも吹ける気楽さは、それ自体がひとつの魅力だ。
夏の夜、駅までの帰り道。剥きたてのオレンジがやがて焦がした砂糖に変わっていく、その移ろいを腕元で確かめながら歩く。5,000円でこの体験なら、疑いは半分くらい晴れる。残りの半分は、あなたの鼻が決めればいい。