Jean Lowe Immortal|朝の駅で弾けるシトラス
四千円台で買えるアロマティック・シトラス、Maison AlhambraのJean Lowe Immortal。朝の通勤の情景を辿りながら、香りの移り変わりと向き不向きを正直に書く。
六月の品川。朝7時半、まだ熱を持ちきらない空気のなかで、改札の人波に揉まれている。シャツの襟元から、ひと吹きしてきたグレープフルーツが立ち上る。少し苦くて、少し冷たい。寝足りない頭に、ジンジャーのぴりっとした刺激が割り込んでくる。
これがMaison Alhambra の Jean Lowe Immortalの第一声だ。約4,200円という価格を知っていると、最初の数分は少し裏切られたような気持ちになる。安っぽくないのだ。
電車のドアが開いて、シトラスが先に降りる
トップはグレープフルーツ、ジンジャー、ベルガモット。柑橘の酸味がシャープに弾けるが、甘くはない。皮を剥いたばかりの果実というより、薄い金属のような清涼感がある。ジンジャーが効いているせいだろう。眠気を断ち切るには十分で、朝のひと吹きとしてよくできている。
濃度はEDP。とはいえ重さはなく、立ち上がりは軽快だ。グリーンとシトラスが主役の、いわゆるアロマティック・シトラス。香りで人を圧倒するタイプではない。むしろ、自分の機嫌をそっと整えるための一本に近い。
昼前、ハーブが顔を出す頃
30分から1時間ほど経つと、ミドルのローズマリーやセージ、ゼラニウムが顔を出す。柑橘の鋭さが少しずつ和らぎ、乾いたハーブの緑が前に出てくる。ウォーターノートが全体を湿らせ、輪郭をやわらかくしている。
このあたりが個人的にいちばん好きな時間帯だ。爽やかさのなかに、ほんの少し大人びた苦みが混じる。デスクで書類をめくっているとき、ふと自分の手首から漂ってくるくらいの距離感がちょうどいい。主張しすぎず、けれど無臭ではない。仕事中のさりげない清潔感としては、かなり優秀な部類だと思う。
午後、温かいベースに着地する
ベースはアンブロキサン、アンバー、ラブダナム。シトラスとハーブが引いたあとに残るのは、ほんのり温かく、ややドライな肌のような香り。アンブロキサンが主体なので、無機質で清潔な温もりという表現がしっくりくる。甘ったるさはなく、皮膚に馴染んでいくような落ち着き方をする。
正直に言えば、ここで個性は薄れる。アンブロキサン系のベースは似た香りが世に多く、Immortal も例外ではない。終盤だけ嗅げば「よくある爽やか系」と言われても反論しづらい。光るのは、あくまで序盤から中盤の流れだ。
強さと、向かない人
拡散力は控えめ。爆発的に香り続けるタイプではないので、香りで存在感を残したい人には物足りないかもしれない。持続も飛び抜けて長いとは言えず、午後にはかなり肌に寄り添う程度まで落ちる。香りの主張を求める夜や、デートの決め手にしたいなら、別の選択肢を考えたほうがいい。
逆に言えば、その控えめさこそ使いどころだ。満員電車、オフィス、昼の打ち合わせ。香りで誰かを不快にさせたくない場面で、清潔感だけをまとえる。春夏に軽くさらりと使うのがいちばん似合う。冬の重たい空気には、やや線が細く感じるだろう。
この「リマンシテのクローン」という評され方をする一本については、Maison Alhambraというブランドの立ち位置を知っておくと納得しやすい。中東発の、手頃な価格で既存の人気香を再構成するメーカー。安価さに見合わない完成度の高さが、彼らの持ち味だ。
日本での入手
国内正規代理店は確認できず、流通は並行輸入が中心。Amazon.co.jp に出品があり、比較的手に入れやすい。価格は約4,200円。香水を試すハードルとしては低く、最初の一本としても、消費用の普段使いとしても気負わずに済む。
強い香りで自分を語りたい人には向かない。でも、香りに頼りすぎず、ただ気持ちよく一日を始めたい人には、これくらいの距離感がちょうどいい。朝の駅で弾けたあの苦い柑橘を、また明日も吸い込みたくなる。そういう、生活に溶ける一本だ。
もし自分の好みがまだ掴めないなら、香水診断で輪郭を探してみてもいい。