Mancera Roses Vanille|バラは、お菓子になれるか
甘いバラとバニラの鉄板グルマン、マンセラのローズ ヴァニラ。トルコ菓子のようと評される一本を、時間の移り変わりと向き不向きから静かに確かめる。
バラの香水、と聞いて身構える人がいる。古風だとか、年齢を選ぶとか、仏壇だとか。そういう連想を一度横に置いてほしい。Mancera(マンセラ)のRoses Vanilleは、バラをお菓子の側に引き寄せた一本だからだ。
いくつかの問いに順番に答えていく。これが自分の夜に似合う香りかどうか、読みながら確かめてほしい。
そもそも、どんな香りなのか
最初に立つのはイタリアンレモンのきらめき。ほんの一瞬、台所の光のような酸っぱさがある。けれどそれはすぐに引いて、トルコ産のバラがふくよかに開いていく。花びらというより、ジャムに近い甘さのバラだ。
そして底から立ち上るのがバニラ。ホワイトムスクとシダーが寄り添って、全体を温かく丸める。多くのレビューが「ターキッシュ・デライトのようだ」と言う。あの、粉砂糖をまぶしたトルコの柔らかい菓子。言い得て妙だと思う。香りそのものが、ひと口の甘いものに近い。
2011年に世に出た、マンセラの看板のひとつ。モンタルと縁の深いこのブランドが、濃度の高いEDPで仕立てている。甘いバラが好きな人の間では、もう長いこと定番として愛されてきた。
時間とともに、どう変わるか
つけた直後のレモンは、せっかちな人には物足りないかもしれない。すぐ消える前奏曲だ。でも、そこから主役のバラへの移り変わりが静かでいい。
十分もすれば、バラとバニラが手をつなぎはじめる。ここが長い。ずっと、この甘やかな真ん中にいる。終盤はムスクとシダーが前に出て、甘さの角が取れ、肌に溶けた温もりだけが残る。ジャムが冷めて、器のふちに薄く張りついたような。
ひとつ正直に書くと、持続はやや短めという声がある。濃度の割に、思ったより早く肌に沈む日がある。朝つけて夜まで、という使い方には向かないかもしれない。
強さと、どこで着るか
甘い。はっきり甘い。だから使う場所を選ぶ。オフィスの密室や、昼間の満員電車では、周りを少し戸惑わせるかもしれない。これは夜の香りだ。
秋から冬の、空気が乾いて冷たくなる頃。コートの襟に忍ばせて、暖かい店に入った瞬間にふわりと立つ。そういう温度差のある場面でいちばん映える。デートの夜、親しい人との食事。距離の近い相手にだけ届く甘さ、と考えるとちょうどいい。
量は控えめから始めるのが賢い。ひと吹きで足りることが多い。重ねすぎると、菓子店の前を通り過ぎる以上の濃度になる。
誰に向いて、誰に向かないか
向くのは、甘い香りに迷いのない人だ。グルマン、つまり食べ物を思わせる甘さを楽しめる人。フェミニンで温かいものを探している人。バラの古風さが苦手で敬遠してきた人にも、これは別物として届くかもしれない。
逆に、爽やかさや清潔感を香水に求める人には重すぎる。甘いものが苦手なら、まず合わない。それから、長時間きっちり香ってほしい人も、持続の点で肩透かしを食らう可能性がある。無理に勧める香りではない。合う人には深く刺さり、合わない人にはただ甘いだけ。それでいい。
マンセラというブランド全体の個性が気になるなら、マンセラのページも覗いてみてほしい。濃く、個性的で、万人向けではない作りが、このブランドの持ち味だ。
日本では、どう手に入れるか
ここは少し歯切れが悪くなる。国内の正規代理店は、確認できなかった。流通しているのはAmazon.co.jpなどを通じた、第三者による並行輸入品が中心になる。
つまり、確かな日本円の定価というものが見えにくい。価格は出品者によってばらつくし、保管状態も読めない。甘いバラが好きだと分かっているなら試す価値はあるが、初めての一本としては少し手探りになることは覚えておきたい。
バラとバニラ、たった二つの言葉で表せる香り。けれどその二つの間に、トルコ菓子ひと皿分の物語がある。甘いものに弱い自分は、冬の夜にこれを少しだけつけて、誰にも会わない日に限って後悔する。もしあなたの輪郭がまだ掴めないなら、香水診断で遠回りに探してみてもいい。