香水村 Kousui Mura
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レビュー

Lattafa Nebras|甘いものに身を寄せたくなる夜に

赤い果実からバニラとカカオ、そして粉っぽいアンバーへ。Lattafaのグルマン、Nebrasを一本だけで静かに語る。弱点も正直に。

4,500円ほどのグルマン香水に、何を期待すればいいのか。その問いから始めたい。安いから安っぽいのか、それとも値段を忘れさせてくれるのか。Lattafa Perfumes の Nebras(ネブラス)は、そのあたりの線引きが曖昧になる一本だ。順番に答えていく。

どんな香りなのか

最初に立ち上がるのは、赤い果実とマンダリンの明るさ。少し酸味を帯びた、果実の皮を剥いたときのあの瞬間に近い。だがこの明るさは前菜にすぎない。すぐにバニラとカカオが追いついてきて、香りの中心にどっしりと腰を下ろす。

カカオといっても、苦いビターチョコではない。砂糖を溶かし込んだ、温かい飲み物のような甘さ。そこにローズがひとひら混じって、甘さが単調にならないよう輪郭を引いている。ベースはトンカビーンとアンバー、ムスク。粉っぽくて、温かくて、肌に近いところで静かに続く。

海外では「ビリー・アイリッシュのNo.1の格安代替」として大きくバズった。その文脈で手に取る人も多いだろうが、Nebras はそれ単体で十分に成立している甘い香りだ。比較は入口でいい。出口は自分の鼻で決めればいい。

時間とともにどう変わるか

つけた直後は果実とオレンジが跳ねる。華やかで、少し幼さのある出だし。ここだけ嗅ぐと「軽い香水かな」と思うかもしれない。

だが30分もすると、果実は背景に沈み、バニラとカカオの層がせり出してくる。ここからが Nebras の本体だ。甘さに重みが乗り、ローズが時折顔を出す。中盤はいちばん色気のある時間帯。

数時間後、香りは肌にぴたりと寄り添う。シュガーとトンカ、アンバー、ムスクの、粉っぽくて温かい余韻。香水というより、暖房の効いた部屋で誰かが焼いた菓子の匂いが服に移ったような、そんな親密さに落ち着いていく。

強さと、どこで使うか

濃度はEDP。香り自体の持続はしっかり感じられる。ただし拡散——いわゆる香りの飛び方は控えめだ。周囲に強く主張するタイプではなく、近づいた人にだけ届く距離感で香る。

これは弱点にも長所にもなる。オフィスや電車で香水の圧を嫌う向きには、むしろ扱いやすい。一方で「存在感のある残り香で空間を満たしたい」人には物足りなく映るはず。そういう期待で買うと、肩透かしを食う。

季節は秋冬向き。甘さと重さがあるので、暑い時期につけると空気が重たくなりやすい。寒い夜のカジュアルな外出、あるいは家で何もしない時間。そういう場面にいちばん似合う。

誰に向いて、誰に向かないか

甘いグルマンが好きで、バニラやチョコの匂いに安心を覚える人。香水に大金をかけたくないけれど、満足度は欲しい人。近い距離で香る、親密な甘さを探している人。そういう人には、強く勧められる一本だ。

逆に、シトラスやウッディの爽やかさを求める人、甘さが苦手な人には響かない。拡散の強さで勝負したい人、唯一無二の個性を香りに求める人も、別の棚を探した方がいい。Nebras は冒険的な香りではない。王道の甘さを、手の届く値段で丁寧に仕立てた——それが性格だ。

Lattafa というブランド自体、コストと満足のバランスで世界的に支持されている。Lattafa Perfumesの他の作品を眺めてみると、この価格帯でここまでやるのか、と感心する瞬間が何度もある。

日本で手に入れるには

国内の正規取扱は確認できなかった。入手は並行輸入が中心になると思われる。参考価格は約4,500円。この値段で買えるグルマンとしては、かなり満足度の高い部類に入る。

甘いものに身を寄せたくなる夜が、誰にでもある。そういう夜に、腕の内側でそっと香るくらいの甘さがちょうどいい。Nebrasは、そんな距離感を知っている一本だ。自分の甘さの好みがまだ掴めないなら、香水診断で輪郭を探してから選ぶのも悪くない。