香水村 Kousui Mura
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レビュー

Lattafa Bade'e Al Oud Amethyst|紫の残り香

四千円台で手に入るウードとローズの一本。甘く色づく立ち上がりから、レザーのような陰影へ沈んでいく。その移ろいと、向かない人のことまで正直に書く。

紫色の香水、と聞いて身構える人がいる。宝石の名を冠した香りはたいてい、名前ばかり大きくて中身が追いつかない。期待する方が悪い、くらいに思っていた。だからBade'e Al Oud Amethystを手首に落としたときも、半分は疑っていた。約四千五百円。ウードを名乗るにしては、ずいぶん控えめな値段だ。

ところが、立ち上がりで少し黙ることになる。甘く色づいたフルーティーアコードが先に広がって、そこへサフランがすっと一筋、冷たい針のように差し込む。この甘さとスパイスの温度差が、最初の数分の主役だ。果実の丸みに、サフランが輪郭を与える。安さを疑っていた自分が、なんとなく気まずくなる瞬間。

甘さが退いて、陰が差すまで

香りというのは、つけた瞬間がすべてではない。むしろ、その後の裏切り方で性格がわかる。この一本は、甘いフルーツで誘っておきながら、三十分も経つとまるで別の顔を見せはじめる。中心に現れるのはローズとウード。薔薇の華やかさと、ウードの湿った深みが絡み合って、どちらが上とも言えないまま拮抗する。甘いだけの香りだと油断していると、ここで足をすくわれる。

そして時間が進むほど、香りは下へ下へと沈んでいく。パチョリ、アガーウッド、ムスク。土と木と、ほのかな獣っぽさ。ここでレザーのような陰影が顔を出す。革そのものが入っているわけではないのに、なめした革のような、乾いた色気がある。最初のフルーティーな甘さを覚えている鼻には、この落差が面白い。別人になったわけではなく、化粧を落としたような、素の表情に近づいていく感覚だ。持続は八時間ほど。朝つけたものが、夜になってもコートの襟元にまだ residしていることがある。

強い。だから、使う場所を選ぶ

正直に言うと、これは控えめな香りではない。拡散力は強めで、ひと吹きで十分、二吹きすると自分の周囲一メートルが紫色に染まる。満員電車や、昼間のオフィス、静かなレストランには向かない。そういう場所でこれをまとうのは、図書館で歌うようなもので、本人が良くても周りが振り返る。

だから使いどころは、夜だ。空気が冷えた秋から冬、外気が香りを引き締めてくれる季節。パーティーや、少し特別な食事。コートを羽織って出かける夜に、この香りは本領を発揮する。襟元から立ちのぼる残り香に、すれ違った誰かがふと振り返る——そういう場面のための一本だと思っておくといい。暖かい季節や昼の光の下では、甘さとウードが膨張しすぎて、やや重たく感じるかもしれない。

向くのは、人と同じ香りでは物足りない人。無難をいくつか持っていて、そろそろ自分の輪郭を香りで描きたくなった人。逆に、石鹸みたいに清潔で軽い香りが好きな人や、ウードの湿り気そのものが苦手な人には、おそらく重すぎる。甘さが強いので、甘い香りを好まない人も最初の数分で脱落するだろう。そこは正直に書いておきたい。安いからといって、誰の肌にも馴染むわけではない。

四千円台で、個性を試すということ

Lattafaはアラブ首長国連邦のブランドで、手の届く価格で香りの冒険をさせてくれる作り手だ。ウードやローズといった、本来なら高価な素材のイメージを、現実的な値段で体験できる。もちろん高級メゾンのそれと同じとは言わない。けれど、この価格でこれだけの移り変わりと存在感を出してくるのは、素直に面白い。

難点は、日本で正規の取り扱いがないこと。手に入れるには並行輸入や海外通販に頼ることになる。到着まで時間がかかったり、保管状態が読めなかったりするのは、この手の香りに付き合う上での小さな代償だ。試香してから、という慎重派には少しハードルがある。

それでも、紫という名に見合うだけの深さは、ちゃんとここにある。甘く始まり、薔薇で惑わせ、最後は乾いた革の影で締めくくる。つけた本人より先に、残り香が記憶に残るタイプの香り。自分がどんな輪郭をまといたいのか、まだ決めかねているなら、香水診断で手がかりを探してから、この紫に手を伸ばしてみてもいい。