ウッディ入門|木の匂いから始める八本
ウッディ系は地味だと敬遠されがちだ。でも木の匂いは飽きない。選ぶ視点を示しながら、手頃なウッディを一本ずつ正直に短評する。
ウッディ、と聞いて身構える人は多い。渋い、地味、おじさんくさい。そんな第一印象を持たれがちな香調だ。だが実際は逆で、木の匂いはいちばん飽きがこない。肌に馴染むと、香水を纏っているというより、その人がもともとそういう匂いだったように見えてくる。派手さで勝負しないぶん、長く付き合える。
選ぶときの視点は、ざっくり三つでいい。ひとつ、ウッドが乾いているか、湿っているか。シダーやベチバーの乾いた木か、サンダルウッドやウードの温かく湿った木か。ふたつ、木の周りに何を置くか。シトラスなら爽やか、レザーやアンバーなら色気が出る。みっつ、使う場面と季節。乾いた木は春夏の昼、湿った木は秋冬の夜に効く。この三点で、以下の香りは驚くほどきれいに整理できる。
まずは清潔なウッディから
木の匂いに慣れていない人は、シトラスやアクアティックで軽くしたタイプから入るのがいい。落差が小さいぶん、失敗しにくい。
Al Haramain アンバーウード カーボンエディション(約7,500円)は、その筆頭。ベルガモットとラベンダーの立ち上がりから、モスとベチバー、シダーへ落ちていく。石鹸のように清潔で、難しさがまるでない。海外ではクールウォーターやグリーンアイリッシュツイードの手頃な代替として名高い。初めて木の香りに袖を通す一本として、これほど無難で気持ちのいいものはそうない。ただ、無難さは裏を返せば個性の薄さでもある。人と違う一本が欲しい人には物足りないかもしれない。
同じ系統で、もう少しスパイスが効くのがアンバーウード ブルー エディション(約8,000円)。レモンやミント、ピンクペッパーが弾け、ジンジャーとフランキンセンスが締める。カーボンより輪郭がくっきりしていて、朝いちばんに纏うと一日が始まる感じがする。春夏のオフィス向き。
Afnan トゥラーシ ブルー(約6,500円)は、この三本のなかで最も直線的だ。ベルガモットからウッディとムスクへまっすぐ落ちる。捻りがないぶん迷わず使える。デイリーの相棒として優秀だが、逆に言えば語ることが少ない香りでもある。
温かい木、湿った木
秋冬の夜に効くのは、木を温めたタイプ。サンダルウッドやウード、アンバーが主役になる側だ。
アンバーウード ゴールド(約7,000円)は、その入口として素直。フルーティーとシトラスで軽く開いてから、アンバーとウッディが温もりを帯びてくる。持続は約7時間、拡散は控えめ。濃厚になりすぎず、ウードという言葉に身構える人でも受け止められる優しさがある。仕事の合間、ふと手首から立ってきたときに少し気持ちがほどける、そういう距離感の香りだ。
色気に振り切りたいならアンバーウード ルージュ(約8,500円)。サフランの華やかなスパイスからジャスミン、そしてアンバーグリスとムスク、ホワイトシダーが甘く残る。ウッディというよりオリエンタルに近く、木は背景に退く。夜やデート、存在感を出したい日向き。ただし清潔感を求める場では明らかに浮く。昼のオフィスには連れて行かないほうがいい。
レザーとフローラルで木を立体にする
木の香りに奥行きが欲しくなったら、レザーやフローラルを重ねたタイプへ。ここからは中級者の領域だ。
Afnan レア カーボン(約3,500円)は、この値段でよくやると言いたくなる一本。レザーとバイオレットリーフが立ち上がり、ウードやローズ、シダーが深いハートを織る。ベースのベチバーとサンダルウッドがアーシーに沈む。レザーの男性的な引きを、フローラルがやわらげている構図が巧い。秋冬の夜、落ち着いた大人の装いに似合う。安さで侮ると、静かに支持を集めている理由がわかる。
ルールを破りたくなったら
ここまで「乾いた木は春夏、湿った木は秋冬」と整理してきた。でも、そういう線引きを一本で越えてくるのがSupremacy Not Only Intense(約5,000円)だ。通称SNOI。ブラックカラントとアップルの瑞々しさから、オークモスとパチョリの土っぽいウッディ・シプレへ深まっていく。持続も拡散も強い、いわゆるビースト。秋冬の夜からオフィス、デートまで、季節も場面も飲み込んでしまう強さがある。もっと華やかにいきたい日は、パイナップルのスモーキーさが光るSupremacy コレクターズ・エディション(約6,000円)へ。
木の匂いは、覚えてもらう香りではない。ふとした瞬間に、あの人こういう匂いだった、と思い出される香りだ。どの一本から始めても、しばらくすればもう手放せなくなっている。乾いた木か、湿った木か。まずはそこだけ決めればいい。