レビュー

Kismet Angel|コニャックとチョコの、甘い体温

バニラとコニャック、ダークチョコが折り重なるブージー・グルマン。Maison AlhambraのKismet Angelを、冬の夜の情景とともに正直に書く。

十二月の金曜。午後九時、居酒屋を出た路地。息が白い。コートの襟を立てた瞬間、首筋から何かが立ち上がった。自分でつけたはずの香りに、自分で驚く。甘い。酒っぽい。そしてどこか、焦げたチョコレートのような影がある。

Maison AlhambraのKismet Angel。By Kilianの「Angels' Share」のオマージュとして知られる一本だ。参考価格およそ4,000円。この値段でこの官能を出してくるのか、と一度は舌打ちしたくなる。

グラスの底に残ったコニャックみたいな立ち上がり

つけた最初の数分は、バニラとハニカム、つまり蜂の巣のねっとりした甘さが前に出る。アンバーが下から支えて、全体が温かい。ここまでは「甘い香水」の顔をしている。

だが数分でコニャックが顔を出す。これが効いている。酒精のあるほろ苦さが、砂糖菓子になりかけた香りを大人の側へ引き戻す。シナモンのちりちりした温度、キャラメルの粘り、トンカビーンの粉っぽい甘さ。順番に折り重なって、気づけば手首のあたりが小さな暖炉になっている。

時間が経つと、ベースのダークチョコレートが濃く沈んでくる。甘いだけじゃない、ビターな余韻。ここが好きか嫌いか、で評価が分かれると思う。私は好きだ。食べ物じみているのに、どこか色っぽい。

電車のドアが開いた瞬間、隣の人が一瞬こちらを見る

拡散は強めだ。ふわりと、ではなく、はっきりと香る。だから使いどころを選ぶ。昼のオフィス、満員電車、会議室——このあたりは避けたほうが無難だと思う。良い香りでも、量を間違えると暴力になる。

逆に、秋冬の夜には強い。冷えた空気は香りを鈍らせるから、これくらい主張のある甘さがちょうどいい。デート、パーティー、少し暗い店。そういう場所で一滴か二滴。首筋ではなく胸元にひと吹きくらいが、ちょうど「近づいた人だけがわかる」距離感になる。

つけすぎには本当に注意したい。三プッシュもすれば、部屋がケーキ屋の裏口みたいになる。控えめに、が正解だ。

誰に向いて、誰には向かないのか

向くのは、甘い香りを堂々とまといたい人。グルマン——お菓子や食べ物を思わせる香調——が好きで、かつ子どもっぽくなりすぎるのは嫌、という欲張りな人にちょうどいい。コニャックとチョコがその欲張りを叶えてくれる。ユニセックスなので、性別はあまり問わない。

向かないのは、軽くて清潔な香りを探している人。石鹸やシトラスの延長を求めるなら、これは重すぎる。夏に涼しく使いたい人にも勧めにくい。甘さが暑さで膨らんで、少し胃もたれのような感覚になることがある。あくまで冷たい季節の夜のための一本、と割り切ったほうが幸せになれる。

Maison Alhambraというブランド自体、こうした「有名な香りの良質な翻案」を安価に出すことで知られている。Maison Alhambraの他の一本と迷うなら、まずこの官能路線から入るのは悪くない選択だ。

日本で手に入れるには

国内の正規取扱は、いまのところ確認できていない。手に入れるならAmazon.co.jpの並行輸入が現実的で、Kismet AngelもしくはKismet Magicの100mlが、およそ3,000〜5,000円で出品されている。価格は変動する。

ひとつ補足を。2024年にKismet MagicへとリブランドされたようだAngelとMagic、名前は違っても中身は同じ流れのものとして扱われている。買うときに名前が変わっていても、慌てなくていい。

冷えた夜、コートの襟から立ち上がる甘い体温。安い一本が、ときどきそういう贅沢をくれる。もし自分に似合う甘さの温度がわからなくなったら、香水診断で一度、輪郭を確かめてみるのもいい。